今まさに起きているRISC-V革命が半導体業界のビジネスのあり方を変えようとしています. しかし, RISC-Vが正しく理解されていないことも多いようです. RISC-Vはオープンソースのプロセッサではありません. ここでは「RISC-Vとは何なのか」という疑問への回答と, なぜコダシップがRISC-Vにこだわるのか, そしてあなたもそれを見逃すべきではない理由をお話ししたいと思います.
RISC-Vとは?
RISC-Vは, 命令セット・アーキテクチャ(ISA)のオープンな仕様です. つまり, Intel/AMDプロセッサのx86 ISAや最新ArmプロセッサのArmv8 ISAと同じように, ソフトウェアを実行するプロセッサとの対話手段です. RISC-Vのポジションは, 特定企業が権利を有するそれらISAと少し異なります. RISC-V ISAはオープンな仕様なので(商用とオープンソースのアーキテクチャ・ライセンスについては, 別のブログ記事で説明), 誰でもRISC-V ISAを使ったプロセッサを作ることができます. よく次の2つの質問をいただきます. 「RISC-Vはプロセッサなのか?」「RISC-Vはオープンソースのプロセッサなのか?」 RISC-VはISAの仕様を指し, プロセッサそのものでもなく, 実装されたソースコードでもありません. 先の2つの質問の答えは共に「No」であることがお分かりいただけましたでしょうか.
RISC-V VS. ARM OR INTEL/AMD?
お客様に製品を供給するベンダにとっては, 囲い込みの成功は喜ばしいことです. なぜならベンダが一度囲い込みしたお客様は, その後競合他社製品に変更することが非常に難しくなるからです. 囲い込みを成功させる最良の方法は「可もなく不可もない必要十分な製品」と, 「リッチなエコシステム」を作り上げることです. そうすれば一度囲い込まれたお客様は, リッチなエコシステムの導入に多くの投資をしてしまい, 抜け出すタイミングを逸し, 非常に長い間囲い込みされる結果となります. 競合する新興ベンダは成功するためにより良い製品を提供するだけでなく, 同等のリッチなエコシステムを構築しなければなりません. しかし, お客様が囲い込まれたソリューションと新しいソリューションがもたらすメリットを1対1で比較をすることは, 多くの場合難しいと思われます.
「IBMを買っても誰もクビにならない」という昔のことわざのように, 最近では「Armプロセッサを使っても誰もクビにならない」というのが通説になっています. しかし, これには負の側面もあります. もし, 企業が固有のソリューションを生かした差別化ビジネスを成し遂げられなければ, 進化は停滞して行きます. そして企業はお客様を満足させる必要十分だけの投資しかしなくなり, 衰退して行きます.
RISC-Vは, このような状況を変化させ始めています. なぜならRISC-V仕様をベースに共通化されたソフトウェア・エコシステムは, プロセッサ・ベンダが異なっても流用できるため, プロセッサ・ベンダには色々なアプリケーションに対する製品のメリットで競争することが自然と求められます. 結果, プロセッサ・ベンダ間の競争は激しくなり, 組込みプロセッサの技術革新の大幅な加速がもたらされ, お客様は「可もなく不可もない必要十分な製品」のクオリティで足踏みする必要がなくなります. また, 新しいプロセッサのベンチャー企業は, それぞれで固有の高価なエコシステムを構築する必要がないため, プロセッサ開発に集中できます. そして多くの新しい革新的なプロセッサ企業が登場することになります.
商用アーキテクチャ・ライセンスのデメリットは?
お客様にとっては何もデメリットはありません. でもプロセッサIPベンダにとって, 「可もなく不可もない必要十分な製品」ではもうビジネスできなくなるのです. コダシップのようなベンダは, お客様のニーズを満たし, それを上回る最高のソリューションを提供しなければお客様は簡単に新しいベンダに乗り換えてしまうでしょう. RISC-VはプロセッサIPのコモディティ化につながるというアナリストもいますが, 私たちは専門化とイノベーションにつながると考えています. RISC-Vは底辺の競争ではなく, むしろ付加価値をお客様が手にするチャンスとなるでしょう.
RISC-V ISAはオープンソース?
RISC-V仕様をはじめに作成した多くの学術機関, 特にUC-Berkleyの活動により, RISC-V ISA仕様の実装コアがオープンソースで多数公開されています. オープンな仕様でなければ不可能だった, さまざまな学術機関やオープンソースのSoCプロジェクトがすでに実現しています. しかし, より重要なのは, 民間企業が独自のRISC-Vプロセッサ実装を自由に設計できることです. これにより, お客様の選択肢はさらに広がります.
RISC-Vとアプリケーションに最適化されたプロセッサとコダシップの関係は?
RISC-Vはモジュラー化された拡張可能なISAセットです. これが意味することは, プロセッサは与えられたアプリケーションに対して, 最小限の命令セット, クリーンに定義された標準拡張, そしてカスタム拡張を実装できるのです. あるアプリケーションに必要な最小限の命令セットが実装されている限り, そのアプリケーションは互換性のあるプロセッサ上でも動作します.
これにより, アプリケーションに最適化されたプロセッサの最大の障壁の一つである, プロセッサ周辺の補助的なソフトウェアの開発に必要な労力が不要になります. このように, これまでDSP等で多用されてきたASIP(Application Specific Instruction-set Processor)の多くは, ソフトウェア開発環境が限定された深~い組み込み環境で使用されてきました. 共通のソフトウェア・エコシステムを持つということは, お客様がどのプロセッサにもアプリケーション拡張機能を自由に追加できることを意味し, デメリットなく, 改善点を活用することができます.
「多くのシステムにとって最適なプロセッサとは, その目的に合わせてチューニングされたものである」ブログ記事スケーラブルでないRISCアーキテクチャを拡張する方法をご覧ください.
RISC-V仕様の管理は?
この仕様はRISC-V Internationalによって維持されており, 会員にはソフトウェア, システム, 半導体, IPなど業界全体から(コダシップを含む)構成されています. 会員企業の焦点は, Arm社などに匹敵する, あるいはそれを上回るようなハードウェアとソフトウェアのリッチなエコシステムを構築することです.
RISC-Vの未来は?
残念ながら私は将来が見える水晶玉を持っていません. ただし長年半導体業界に携わってきて言えることは, プロセッサIPの競合他社も含めて様々な企業がこれほどまでに協力して, 新しい仕様に関心を持ち, その実現に向けて動いているのを見たことがない, という事実です.
RISC-Vは未来なのか?エンタープライズ・ソフトウェアの分野がオープン・スタンダードに基づいて構築できるようになった時(Linuxや他OSS等)と同じような, 爆