RISC-Vの将来性は?これはよく聞かれる質問ですが, 仮に「RISC-Vはプロセッサ市場で中心的なISAになるのか」という意味の質問だとしましょう. RISC-Vの展開は確かに早い状況で, この5年間で大きく変化してきています
RISC-Vとは何? RISC-Vは何をする?
RISC-Vは2010年にカリフォルニア大学バークレー校で生まれ, 産業界に浸透するまでに数年を要しました. 大きな一歩となったのは, 2015年にRISC-Vの採用を推進するため, NPO法人としてRISC-V Foundationが設立されたことです. 2020年初頭, その活動はスイスに本拠を置くRISC-V Internationalとなりました
2017年のEmbedded Worldに出展した際, コダシップのブースにはRISC-Vのロゴが大きく掲げたのを覚えています. 多くの来場者から「RISC-Vって何?」と質問され, 欧州での認知度が低いことが伺えました. その後, 状況は一変し, どの地域でもRISC-Vは高い関心を集めています
長年, プロセッサはMPU, MCU, GPU, APU, DSPなどに分類される傾向がありました. 携帯電話など一部のデバイスでは, 複数の種類のプロセッサコアを組み合わせて設計することもありました. 例えば2016年を振り返ってみると, MPUの世界はx86アーキテクチャが主流で, ArmはAPU(アプリケーション・プロセッサや携帯電話のエコシステム全般)とMCUの両分野で勢力を伸ばしていました
RISC-VはArmより優れているのか? RISC-VはIntel/AMDのx86より優れているのか? RISC-Vは間違いなくそれらと異なり, 新たなチャンスをもたらします. RISC-Vが可能にする市場の新トレンドをいくつか確認できます. そのうちの3つを見てみましょう
トレンド1: RISC-Vの性能は向上している
RISC-V初期は, 主に学術的なプロジェクトで使用されていました. しかし, 2016年までには, 多くの商業企業がRISC-V ISAをベースにした組み込み用マイコンを開発するようになりました. ここまでの前進は, RISC-Vコミュニティにとって比較的容易なステップだったと言えるかもしれません. なぜなら組み込み開発者は, ソースコードとして提供されるミドルウェアなど, さまざまなソースからシステムを構築することに慣れていたからです. また, 組み込み用のコアは, シンプルなのです
より難しいのは, アプリケーション・プロセッサへの移行で, LinuxやAndroidのようなリッチなOSをサポートするためには, かなり複雑な処理が必要になります. 携帯電話アプリケーションの場合, 複雑なエコシステムが存在し, RISC-Vベンダーがサポートするには時間がかかると思われます. しかし, Linuxを使用するシステムには, RISC-Vアプリケーション・プロセッサを使用する機会が多くあり, ミッドレンジ性能に対応するコダシップA70のようなIPコアの選択肢もあります
今後, ハイパフォーマンス・コンピューティング向けに複雑なRISC-Vコアを作るサプライヤーが増えることが予想されます
トレンド2:RISC-Vはプロセッサの垣根を取り払う
半導体のスケーリングが崩壊している中, 従来のプロセッサとの境界が曖昧になりつつあります. 費用対効果の高いパフォーマンスをオンチップで実現するために, ドメインに特化したアクセラレータの需要が増えており, 要求されるワークロードに合わせて設計をチューニングすることがますます必要になってきています
RISC-V ISAは, 最小限の基本整数命令セットを持ち, カスタム拡張が可能なため, 特殊なアクセラレータを作成するための理想的な出発点となっています
携帯電話のように短期的にアーキテクチャを変更する可能性が低く複雑なレガシーソフトウェア必要とするアプリケーションもありますが, そのような制約がないものもあります. AI(人工知能)のような新しいアプリケーションは, 柔軟性とカスタマイズ性を備えたオープンISAのRISC-Vに移行しつつあります. さらに将来の話になりますが, レガシーへの配慮が不要になった時には, RISC-Vはさらに大きなシェアを獲得する可能性を秘めています
トレンド3:顧客は特定サプライヤーによる独占を避けたい
最後に, プロセッサ市場の変化が熱望されています. 1980年代以降, マイクロプロセッサはIntel/AMDのx86デュオが支配してきましたが, 1990年代後半, 携帯電話用プロセッサ市場ではArmがデファクト・スタンダードになりました. さらに, その支配は隣接する組込み機器の分野にも拡大しました
この10年, エンジニアの「Arm疲れ」や, 主要市場における支配的な立場や囲い込みに対する不穏な空気を感じています. しかし, Armが幅広い製品群でスイスのような「中立性」を主張する限り, Armのライセンスを導入しても誰も解雇されるようなことはありませんでした. ソフトバンクに買収され, その中立性は著しく損なわれ, 失敗に終わったNvidiaとの合併の試みも, 多くのライセンシーを不安にさせました
フリーでオープンなRISC-V ISAは, 広く関心を集めており, 市場に大きな変化をもたらすきっかけとなりそうです. オープンスタンダードな仕様であるため, 今後何十年にもわたって利用できる可能性を持ち, 複数のサプライヤーによるプロセッサコア提供のため, ベンダによる囲い込みを回避することができます
x86やArmのような歴史あるアーキテクチャが一夜にして消滅するとは誰も思っていませんが, この数十年で初めて, 設計者はRISC-Vという実現可能な代替手段を手に入れたのです. RISC-Vの適用範囲がますます広がり, エコシステムも急速に拡大しているため, RISC-Vの市場シェアは今後も拡大し続けるでしょう. このことは, Semico Researchなどの市場レポートが, 2025年までに624億個のRISC-V CPUコアが消費されると予測していることからもうかがえます
RISC-Vは, 今後急速に発展し, 中心的なアーキテクチャになる可能性が高いことは確かです